店主のお気に入り⑥
2020年9月21日
過去の当シリーズをお読み下さった方にはお気付きかもしれませんが、当シリーズで取上げているのは、あくまで一万円以下のお品です。
一万円以上出したら美味しいのが当たり前、美味しくなかったら詐欺だ、と、店主も思うからです。
一万円以下で最も美味しいシャンパーニュ、それは、店主の見解では、「泣く子も黙る」とどのソムリエも枕詞を付ける、「ボランジェ」でございます。
こんなことを書くと、利害関係部からクレームの嵐、忖度しなくちゃ、ああ何だってこんな壮大なテーマに挑んじゃったんだろう、あれもこれも飲んでないし、調べなくちゃいけない事が山ほど、書けないじゃない・・・と、前回から一年以上も経過してしまい、結局言い訳の嵐。
ま、いいか、もうすぐ「007ボトル」もリリースされる事だし。
吹けば飛ぶような小さなお店の店主の個人的見解でございますから。
店主がワインビジネスの世界に飛び込んで知った事、それは、「シャンパンを制する者がワインビジネスを制する」、これです。
開店当初、ワイン専門店を謳うからには、超有名シャンパン「M」とか「V」とか「D」とか置かないと、さすがに格好がつかないでしょ、という事で、正規輸入品を問屋さん経由で購入して「M」とか「V」とか「D」とか置いたのですが。
超ご近所の某スーパー様も「M」とか「V」とか置いてらして、あちらは並行輸入のインポーターさん経由なので、お安くお出しになってらして。
仕方ないから当店も安ぅく、仕入れ値くらいのお値段で出しておりました。
すると、いつの間にかスーパー様もお値段を下げてらして。
もう価格の削り合い。
挙句の果てには、納価(納品価格)を切ってしまって、売れば売るほど損失が。
喜ぶのはお客様だけ、そんな逆ザヤ状態に、仕入れ担当でもある店主は疲れて果ててしまいまして。
「もう置かない」と宣言したのでございます。(お客様が喜んで下さるのは良い事ですが、サスティナブルな値付けでないと、当店の存続が危うくなります。)
代わりに、「M」とか「V」とか「D」にも負けない、これぞスーパースター、胸を張って「当店にはこれがあります!」と言えるシャンパンを探す旅に出たのです。
まず第一にクオリティ、即ちお味。そして知名度、レア度、店頭価格一万円以下であること。
悪戦苦闘の途中には、「M」や「V」や「D」そして「K」の販売元で有名な、ワインビジネス界最大の巨人、某「LVMHDJ」社が珍しく業者の合同試飲会に出展すると知り、その為だけに、A山ダイヤモンドホールの地下に馳せ参じました。気合を入れて正装して。何とか卸し値を安くしてもらって当店の店頭に置けないかと、諦め切れなかったのですね。
この世界に飛び込んでまだ3年位、そもそも門外漢、年も山ほど取っている事だし、怖いものなどありません、の勢いで、えらく長身でイケメンのアングロ・サクソン系スタッフにアターック!!
「直取り(直接取引)して下さい!!」
すると彼、「分かりました。私も某県でワインショップを経営しているので、貴方の気持ちはよく分かります。」と、完璧な日本語でにこやかに。
しかし、そもそも日本広しと言えども、某「LVMHDJ」社が直取りしているような店舗や飲食店は、超有名ホテル一軒だけ、それは恐らくGMがフランス人だからだろう、それを我々は「フレンチ・コネクション」と呼んでいるんだ、というのが事情通の某営業氏の見解。某「LVMHDJ」社から梨のつぶてだったとしても、何の不思議も無いことでございます。
素晴らしいシャンパンを探す放浪の旅は続く。
良さげなシャンパンを数々渉猟する中で知った事は、「良いシャンパン」を柱として商売が成り立っているインポーター様がいること。
なので、割り当て制になっていて、割り当てを頂くまでに、他のワインを沢山買わないといけないと。
シャンパンとは、そこまで特別なものなのですね。
昔々、某サーヴィスマン養成系専門学校の同僚だったスイス人女性ソムリエのシャンパン講座に出席した時の、忘れがたい言葉。
「シャンパンはいつ飲むべきものでしょうか?朝に、昼に、夜に、嬉しい時、楽しい時、悲しい時、何も無い時、つまりあらゆる時に飲むべきものです。」
この言葉の真意は、シャンパンは生活を美しく、心を癒し、豊かにしてくれる、という事だと思います。
英語の辞書には「champagne breakfast」という慣用句が載っていて、「贅沢な生活のたとえ」とあります。
そりゃ朝食にまで飲めたら嬉しいですが、人間ダメになるような気もしますね。
やはり、特別な時に、素晴らしいシャンパンを飲みたい。
一万円以下で買える、素晴らしいシャンパン。
きっかけは、一本の電話でした。
当店で長らく仕入れしていた、とあるロワールのワイン。
それを今まで取り扱っていたインポーターから、別のインポーターに移る事になったというお電話を営業嬢から頂いたのです。
(この業界ではよくある事で、それを「玉突き事故」と呼ぶそうです。)
愛着のあるワイナリーだったので、どこのインポーターに移ったのか、こっそり教えて下さいな、と営業嬢にお願いしたところ、耳打ちして下さいました。
教えて頂いたインポーターのホームページを調べたら、出てきたのが「ボランジェ」!!
「ボランジェ」と言えば、某「007」も愛飲、英国王室御用達の、超有名シャンパンではないですか。
(それまで、店主、「ボランジェ」を飲んだ経験が無かったのですね。出身地のデパート等で目にした覚えもあまりありませんでした。)
しかも、この当時、スタンダード・キュヴェは、白もロゼも一万円以下(現在は、残念ながら、ロゼは値上がりして、一万円より上になってしまいました)。
これは、と思い、早速この大手インポーター様にお電話したのです。
こんな大手、当店と直取りして頂けるかしら・・・別の某大手様にお電話した時のように、「ただ今加盟店を増やしておりません」とガチャンと電話を切られたらどうしよう、とドキドキものでした。
そして、結果は・・・!!
確かOKが出るまで暫くお待ちしたように思います。
その間、期待に胸を膨らませたり、悲観して溜息をついたり。
まるで恋愛ですね。
担当の方が御来店と言うので、休日出勤し、契約を結び、予算を確保して、発注し、初めての納品の日には、嬉しくてピョンピョン、飛び跳ねてしまいました。
「ボランジェ、ボランジェ」とテーマソングまで歌って。
細く長い糸を辿るようにして、漸く辿りついた素晴らしいシャンパーニュ。
それが「ボランジェ」でした。
「1829年にジャック・ボランジェによって創立された名門シャンパーニュ・メゾンです。
創立当時から変わることなく一族によって厳しい基準が保ち続けられており、一貫したスタイルと高い品質を誇るシャンパーニュを造り続けています。
ボランジェ・スペシャル・キュヴェは、別格のノン・ヴィンテージ。
マグナム・ボトルで寝かせたリザーヴ・ワインがブレンドの大半を占め、グランクリュ(特級畑)とプルミエ・クリュ(一級畑)を85%以上使用。」
そして遂に、家で、ボトルを開ける時が来た。
グラスに注がれる美しい黄金色の液体。
繊細な泡。
複雑で、熟した果実の香り。
それはそれは素晴らしい、勝利の味がしましたよ。
ボランジェ・スペシャル・キュヴェNV
白泡/辛口
品種:ピノ・ノワール シャルドネ ピノ・ムニエ
生産者:ボランジェ
産地:フランス/シャンパーニュ地方
価格:¥9,350(税込)
ボランジェ・ロゼ
ロゼ泡/辛口
品種:ピノ・ノワール シャルドネ ピノ・ムニエ
生産者:ボランジェ
産地:フランス/シャンパーニュ地方
価格:¥13,200(税込)